超絶・鏡の絵本

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きょうのおやつは ふしぎなにじ

相沢のイチ推し絵本をご紹介しましょう。ズバリ『ふしぎなにじ』『きょうのおやつは』 です。どちらも福音館書店発行で、作者はわたなべちなつ(渡邉千夏)さん。2冊とも、鏡の特性を生かした楽しい絵本です。

2冊同時発売ですが、絵本のテイストは全く違うと言って良いでしょう。『ふしぎなにじ』はとてもデザイン的・幾何学的な作品で、超・美しい!ページをめくるごとに、その造形美にハッとさせられます。一方『きょうのおやつは』は、とてもかわいい作品で、2歳児にも喜ばれそう。ホットケーキが出来上がるまでを猫が待っています。

どちらも[かがみのえほん]ですから、普通の絵本とちょっと違う点があります。ページをめくる手を、直角の所で止めて斜めから見るのです。この時の絵が良い!鏡の特性を生かした仕掛けが素晴らしいのです。かつてない立体的な世界がそこに展開されています。

まぁ詳しくは手にとって見ていただくとして、ここからは、この2冊の絵本の誕生エピソードを書きましょう。

なんと、この絵本たちは百町森のプレイオン(親子プレイコーナー)から生まれたのです。3年前、作者の渡邉千夏さんが静岡にいらっしゃった頃、保育セミナーに参加してくれたんですね。その時の講師は、ネフ社のチーフデザイナー、ハイコ・ヒリック氏でした。彼はネフ社の新作の製品化を検討する立場にいる人です。せっかくなので、セミナーの時間外に、参加者が作った作品をハイコ氏に見て貰おうという企画ももうけました。そこに持ち込まれたのが、渡邉千夏さんの鏡の絵本(の原型)数冊だったのです。それはもう、申し分のない出来の絵本で、ハイコ氏もとても気に入った様子。が、なにせネフ社はおもちゃメーカーであって、出版社ではありません。結局その場では、その試作絵本数冊をスイスに持ち帰る事だけが決まりました。

その後、渡邉さんとスイスのハイコ氏とは何度かのやり取りがあったようです。しかし結論的には、ネフ社からの出版は出来ませんでした。ハイコ氏も、ダネーゼ社やコッライーニ社などの出版社に売り込んでくれたりしたんですが、残念ながら海外デビューは果たせなかったのです。この間、渡邉さんは何度か私にメールで経過報告をしてくれました。ネフ社でボツが決まった時期、当然ながら彼女は、やや落胆ぎみでした。そんな彼女の為に、私は一肌脱ぐ事にしました。イヨっ男だねぇ!(誰も言ってくんないから自分で言ってみた)

私は福音館書店の親しい編集者、Yさんに連絡を取ったのです。「Yさんが、絶対好きそうな絵本を描いてる方がいるんだけど会ってやってくれない?」てな調子。その時、渡邉さんは名古屋にいて、福音館は東京で、じゃあ中間の静岡で会いましょうという事になりました。またまた、百町森のプレイオンが舞台です。私は、お二人を紹介すべく、またも立ち会った訳です。プレイオンは実は凄くゲンの良い場所なのです。リグノの絵本『ぼうし ころころ』(福音館書店発行)の製作中、Yさんと私、それに故・長谷川摂子さんが打ち合わせしたのもプレイオンでした。私が長谷川さんに、リグノのレクチャーをしていたその最中に、2冊目の『あかくんと まっかちゃん』のアイデアが生まれたのです。

さてこの日、渡邉さんとYさんは、完全に意気投合!てな感じでした。な、なんと、Yさんは渡邉さんと会う以前から、いつか鏡を仕掛けに使った絵本を作ってみたいと思っていたそうです。マジ?奇跡?いえ、これを運命と呼ぶのでしょう。まぁ、この作品たちがYさんの好きそうな絵本だな、という私の直感が正しかったとも言えるのですが(どや顔)。

渡邉さんにYさんを紹介したのには、実はもう一つ理由がありました。それは福音館書店とネフ社は既にパイプが出来ている、という事実です。福音館書店発行の、よぐちたかおさんの『サーカス』をネフ社が製品化しているのです。渡邉さんは、ネフ社で作品(絵本だけど)を出したいと希望している訳ですから、福音館書店でまず出版されれば、ネフ社が製品化する可能性だってある、という訳です。おまけに渡邉さんとハイコ氏は、もうツーカーなんだし・・・・。

さてその後、渡邉さんは旦那さんの仕事の関係でベルギーに渡り、今度は日本のYさんとのやり取りが始まった訳ですね。とは言え天下の福音館書店です。試作絵本がいかに良い出来だとは言え、まんま出版されるほど甘い世界ではありません。何度も改定されたようです。ハイコ氏立ち会いのもとで、私が見た試作は、モノトーンを基調にした作品がほとんどでしたが、最終決定稿(この度出版された絵本)はなんと虹がメインで、美しい彩色が施されております。変われば変わるものです。ですが、さすが福音館書店というべきでしょう、試作より格段に良くなったと、私は思います。もう1冊の『きょうのおやつは』は、ストーリーのある絵本で、こちらも完全オリジナルの楽しい絵本に仕上がっています。私はゲラ刷りを見て初めて、渡邉さんは絵も上手いんだと気付かされました(笑)。

ここでクイズです。私がこの2冊の絵本のゲラ刷りを、帰国した渡邉さんとYさんに、見せてもらった場所はどこでしょう?ハイ、もうお分かりですね?そうです、百町森プレイオンです。こうしてこの場所から、新たな絵本がまたも誕生したのです。パチパチパチパチ・・・・。

私が、この2冊の絵本を推す理由は、なんと言っても斬新さでしょうね。仕掛け絵本の範疇に入るのかもしれませんが、こんな絵本を少なくとも私は、かつて見たことがありません。鏡を使用したおもちゃはいろいろあります。拙作の中にも「ミラモ」があるもんね。でも、絵本では初の試みでしょう。Yさんも、素材探しから始めたと仰っていました。通常の編集とは違ったご苦労もあったようです。

ともあれ、いよいよ完成、出版の運びとあいなった2冊。一人でも多くの方に、手に取ってご覧頂きたいと、私は心から思っております。よろしくね~。

(コプタ通信2014年12月号より、相沢康夫)