ある保育園の改革のはなし その1
A保育園は平成2年頃から、今までの一斉保育という形から、子ども一人一人を大切にする保育に変える取り組みをして今に至っています。当時、保育指針が変わり、いろいろ研修や講演会がある中で、どの園も大方今までの保育スタイルを変え、「自由保育」というものを目指す機運がありました。つまり、子どもを集団ではなく個として捉え、一人ひとりの気持ちを汲める保育をするにはどうしたらいいか模索していたのです。
私も仕事でいろいろな園に出向いて行きますが、当時この「自由保育」という考えはどの園もうまく捉え切れていなくて、子ども達はただ好き放題にしている状態になっている所がありました。保育室の出入りは自由(これを異年齢交流などと自慢げに話す園長もいました)、食事はどこで食べてもいい(席が決まってないだけでなく、どの部屋で食べてもいい)、昼寝もどこでしてもいい...、それは全く目を覆うような光景でした。子ども達は、さぞかし落ち着かず、不安の中で一日を過ごしたことでしょう。でも、私の印象では、なかなか意識の高い園長が、こういう保育をしていました。
それに対し、A保育園では子どもの生活習慣ができ、子どもの自立ができるようになってから、「自由」を保障するようにしています。例えば、食事の前、小さな頃は保育士が口を拭いてあげますが、だんだん自分で拭けるようになります。これが、ここで言う自立ということです。そうした部分部分の積み重ねの結果、卒園する頃には人の話が聞ける子、「指示待ちっ子」でない自分の判断で行動できる子に育つというのです。
これは一見管理されているような印象を持つ人もいるのですが、自立している子、個として育っている子こそ本当の意味で自由な子です。また、個として育つことによって、集団としてもまとまりができるのです。
その証拠に、私は時々妻とこの保育園にお話や絵本の読み聞かせに行くのですが、保育室に入ると、子ども達は静かにさっと集まって来て、物語の世界に耳を傾けます。この子たちは心が本当に自由なんだなぁと私たちはいつも大人として感心してしまいます
(コプタ通信2007年03月号より、柿田友広)