ある保育園の改革のはなし その4
A保育園の乳児の部屋は複数の担任の先生がいますが、育児の担当の先生が決められています。どの先生がどの子を見るかが決められているということです。それは一年間変わりません。父母との間の連絡ノートもいつも同じ担当の先生が書きます。このことは親にとっては大変安心できることです。
食事は乳児の場合、全員いっしょにするのではなく、最初は保育士対子どもの割合が1対1、それが1対2になり、1対3、1対5と変わっていきます。1対1の時も初めは抱っこして、それから椅子に座って向かい合って...と言う風に変わります。子どもは生活習慣を少しずつ身に付けながら、自立できたら次のステップに行きます。皆で一緒に食事をするほうが楽しいしのではと批判されることもあるそうですが、生活習慣ができていない乳児には、それはあてはまらないというのです。最初は1対1で、先生が「おいしいね。」と言うと、子どもがニコッとするという信頼関係から始まるというわけです。
食事をする時は、まずトイレに誘い(オムツの子はオムツ交換台で換えます)、手を洗い、席に着きます。席はいつも同じ、その方が落ち着いて食事ができますから。そして口を拭き、「いただきます」を言って食べます。全員一度に食べるわけではないですが、その間他の子は待っているのではなく、遊ぶ環境が充分整っているので、食事に誘われるまで遊びを続けているわけです。
箸を持つのは年長だけ(年長でもフォークは用意してある)、年中まではスプーンの持ち方を少しずつ学びながら、こぼさずに食べる習慣を身に付けます。遊びの中で、手が器用になることをしていれば、年長になれば箸が使えるようになるということです。
さて、A保育園のこうした一人ひとりの子に対応した保育では、よそでははみだしそうな子でも自然にとけ込んでいるような気が私はしました。「時間を経て、やっと本当の意味が解ってきたところです。」と園長先生はいいます。「子どもは育てるのではなく、自分で育つもの、保育士はそれを支え、そのための環境を用意している。」と。こうした保育のスタイルに誇りを持って取り組んでいるA保育園の姿に、私は大変頼もしさを感じました。
(コプタ通信2007年06月号より、柿田友広)