前回は、川和保育園前編として園庭の遊具やそこで子どもたちが遊び込む姿を中心にお伝えした。まだ読まれていない方は、先に「川和保育園 前編」を読んでいただけると今回の記事をよりご理解いただけると思う。
川和保育園に入園するには
子どもがいる方はご存知だと思うが、保育園に入園するには市町村の役所に届けを出す。しかし、この入園方法についても、川和流のやり方がある。役所に届けを出す前に、まずは園に見学に行き、園長と面接をする必要がある。なぜなら、川和保育園がどういう園かを知らずに入ってしまうと後々大変だからだ。何が他の園と違うかというと、保護者参加の行事や話し合いが多数あり、時間とお金の負担がかかる。私が知る限りでも、夏にはじゃぶじゃぶ池の掘り起こし作業、打ち上げ花火(花火師の免許をとるお父さんもいるという力の入れ様)、秋にはバザー、山や海への園外保育のサポーター、年長児の父親たちは卒園製作で園庭の遊具を作るなどがあり、卒園時には感謝の気持ちを込めて寄付をする家庭も多い。そして、もう一つは「子どもにケガをさせない」ではなく、小さな危険を経験しながら、「自分で自分の身を守る力」を身につけられるようにと考えている。そのため、幼児はケガは骨折までは可能性としあると伝えている。しかし、実際の骨折があるのは数年に一度くらいの頻度だそうだ。
(上:2008年冬 、下:2015年夏:これもお父さんたちが中心となって作った卒園製作の遊具の一つ。登っていくと、絵本が読めるスペースやハンモックがあったりと、登った後も楽しめるようになっている。)
「安全」をどう考えるか
一般的な保育園では、子どもたちにケガをさせないように、危険から遠ざけたり、囲ってしまう。これは、本当の意味で子どもを守ることではなく、責任のある大人を守る事に他ならない。それでは、子どもが自分で危険を回避、克服する力が身に付かないと川和保育園では考えている。「危険」は本来言葉で教えられることではなく、主観や感覚だ。その感覚を養うためには、小さな危険を経験しなければならない。しかし、大ケガに繋がるような事故が起こらないための安全対策はしっかりとされている。川和保育園には重層構造の遊具がたくさんある。怖いのは、高所からの落下事故だが、これらの遊具には階段がついておらず、石垣やのぼり棒を自分の力で登らなければ上へは行けなくなっている。また、マットを敷いたり、全体を見守る保育士を配置したりと川和式の安全対策が随所にされている。この安全対策についてより詳しく知りたい方は「子どもと親が行きたくなる園」(1,500 円+ 税)も合わせて読んでいただきたい。
(高さのある園庭遊具:これらの遊具には一切階段がついていない。自分で登る力がついていないうちは登れないように意図的にしている。)
川和保育園に入るとどういう子になる?
よく、「この保育園に入るとどんな子になりますか?」と聞かれるそうだが、「この園に通うとこんな子になります。」と謳っている園があればそれは恐ろしいことだ。子どもの人間的なベースを作っていくのは最終的には家庭の力だと園長は繰り返し言う。だからこそ、6年間同じ保育園に通っても、子どもたちは千差万別に育っていくのだ。保育に携わっていると、子どもたちをこう育てたいとおごった考えを持っていた自分を省みた。しかし、子どもは本来自分の中に育つ力を持つ。園と家庭と一緒になってその子の育ちを見守る。言葉では理解したつもりになっていたが、今回、保護者と共に子どもの育ちを真剣に考え、実践されている川和流保育に触れ、本当の意味で理解できた気がする。
子どもが本気なら大人も本気!!
前編で、子どもたちが本気で遊んでいる姿をお伝えしたが、子どもたちが本気なら、この園に関わる大人たちも本気だ。今回の取材のエピソードで印象深かったのが、園長が子どものために本気でケンカした話だ。園では、四季折々田んぼに行く。ある時、あぜ道を歩いていたら怒られてしまったそうだ。田んぼを荒らしたわけでもないのに怒られたことに、園長も怒る。自分たちが子どもの頃は、当たり前のことだったと。園長のその姿を子どもたちはしっかりと見ていた。卒園文集の子どものつぶやきに、「えんちょうはこどものためにけんかしてくれる」とあったそうだ。子どもは大人の姿をしっかりと見ている。園長と子どもたちの絆がかいま見られたエピソードであたたかい気持ちになった。
(園長とコマ対決:年齢差60以上の真剣勝負!もちろん手加減なんてしません。園長も本気だからこそ、子どもたちも勝ちたいと何度も挑んでいくのです。)
川和保育園を筆頭に、園庭・園外での野育を推進する会「野育(のいく)」が全国に広がり始めた。幼児期の野外で育まれる「生きる力」を支援する、今後もこの活動に注目していきたい。
前編をまだ読まれていない方は「川和保育園 前編」もぜひお読みください。