龍雲寺学園バウデア学舎(以下、龍雲寺学園)を私が初めて知ったのは、2009年の百町森保育セミナーで、木村園長のお話を聞いた時です。私は常々、保育は、良質な環境(遊具、おもちゃなど)を揃えるだけでなく、保育士の必要に応じた環境設定や援助があって、子どもの遊びをより豊かにしていくと考えています。龍雲寺学園はまさに、その両方が兼ね備えられている理想的な園だとその時から思っていました。
見学前に、営業担当だった相沢から、この龍雲寺学園の保育がまたさらに変わってきていると聞いていたので、どんな保育になっているのか、実際に見られるのを楽しみにしていました。
(園舎、園庭、お寺の本堂 寺町寺院郡にある龍雲寺学園。敷地は広いとは言えないが、朝の日課の散歩で歴史的な並みを楽しめるのはここの特権の1つ。)
2歳児は幼い?たくましい?
一般的に保育園では、0歳児から2歳児が乳児、3歳児から5歳児が幼児という分け方をしています。幼児を異年齢クラスで保育している園は3歳児からが多い中、龍雲寺学園は昨年度から2歳児からにしたそうです。なせ、あえて2歳児からなのか。その理由を木村園長に聞いてみました。
「自我の爆発(イヤイヤ期とも言われる)は2歳と言われているが、保育園の2歳児クラスは誕生日を迎えると3歳になる子達なので、むしろ1歳児クラスの後半からにこの時期を迎える子が多い。そして、子どもの自我が芽生え、自立が始まる時。他者との関わりをたくさん持つ環境がこの時期から必要だと思いました。保育園の年齢区分では、例えば、4月生まれの子は3歳になっても約1年間3歳未満児として扱われてしまいます。これは発達に即しておらず、満3歳を迎えてから入園できる幼稚園の方が合っていると思います。」
また、実際に子どもたちの様子を近くで見ている職員さんは、変化を実感しているそうです。「2歳児から5歳児の交流がすごく自然で、子ども同士のやりとりが以前より増えました。大きい子は、2歳児にどう話したり関わってあげると伝わるのかすごく考えて、大人よりも丁寧で具体的な対応をすることもあります。また、異年齢クラスに入る事で、2歳児の子たちが、萎縮してのびのびとできないのではないかと心配したのですが、私たちが思っていた以上に2歳児はたくましかったんです。園庭の遊具なども大きい子の真似をしてどんどんできるようになってきました。」
(自然な関わりが生まれる 小さな子が困っていたり、手助けが必要だと感じると自発的に世話をしていた。大人に指示されたり、ほめれることを期待してということではない、自分の中から芽生える思いやりの気持ち。子どもだけの世界ができていた。)
子どもがケンカしたら...
「子ども同士の関わりや遊びを大切にしているので、必要以上に大人が声をかけたり、介入しすぎずに、子どもが自分で発見することを待つようにしています。」と主任の吉岡先生がおっしゃっていましたが、そんな思いが子どもの様子からも見られました。
お昼近く、園庭の隅で見学している私に、「おへやでゲームしよう。」と一人の女の子が誘いに来ました。一緒に部屋へ入り、2階の保育室へ。その子がゲームを取ってきて、カードやコマをセットしていると、別の女の子が、「さっきは葉っぱ取っちゃってごめんね。一緒に遊ぼう。」と言ってきました。どうやら、園庭で遊んでいる時、この二人に何かトラブルがあったようです。それにしても、園庭から戻ってきてだいぶ時間が経っています。私を含め多くの大人が子どものケンカを見たら、その場で謝らせたり、解決させようとするのではないでしょうか。でも、この園では子どもを信じ、自分達で解決できるよう、大人は見守り、介入しすぎないようにしています。この子は「一緒に遊びたいけど、ケンカしちゃったし、どうしよう。」と葛藤があり、自分で謝ろうと決めたのかもしれません。ぶつかったり、悩んだりするのも大事ですね。見学前日に、園長先生にインタラクション(交流、相互作用)の話を聞いていたので、普段だったら見落としていたかもしれない子どものやりとりから、気づきをもらえたすてきな時間でした。
保育は社会的環境づくり
木村園長のお話の中で印象に残っているのが、保育園の役割は、社会的な環境を作る事だということです。人間は生物学的にも未熟で生まれてくる子どもを集団で育てるようにできている生き物なのだそうです。子どもの成長のためにも母親と1対1でなく、いろんな人に手をかけてもらう必要があります。家庭においても、親が子どもを社会化していく事が子育てなので、保育も一緒にそこを担っていく役割があるということでした。そのための手段の一つとして、龍雲寺学園では2歳児からの異年齢保育をはじめたということですね。次号ではもう一つの変化、子どもが自分で室内、戸外を選び行き来しながら遊んでいる環境についてお伝えします。